
歯車物語 著:歯車
第3話 ブロンドの髪
ヤマバは肩まである自慢のブロンドの髪を後ろに、少しあげて縛った。鍛え上げられた体は絞まっていたが胸は少し豊かで、任務では邪魔なこともしばしばであった。ほっそりとした顔には髪とほぼ同じ色をした目が、少し控えめに存在した。とびっきりの美人ではないが、それなりの自信はあった。ただ、体に刻まれた無数の傷跡が、異様さを放っていた。
「もう行くの、姉さん?いつも早いな。」
うなずきながらヤマバは返した。ヤマバには二人の妹がいる。先の大戦で両親を亡くしており、肉親と呼べるのはこの二人だけである。任務で家を空けるようになってから、家を切り盛りしているのはもっぱら今話し掛けてきた上の妹である。最近は見習いの剣士としてモンスター討伐に出ることもあるようだ。
「今回は長くなりそうだ。留守を頼む」
「気を付けて」
上の妹はさすがにまだ見習いとあって、今回の防衛戦には召集されていない。下の妹はまだ寝ているようだ。
「じゃ」
朝霧の中、ヤマバは昨夜久々に帰ったばかりの家から立ち去った。昨晩ハク村が孤立状態となったことで、任務の開始が早まった。カロン族、ガロン族も動きだし、一部では小規模な衝突が起きていた。
ミレナ南方の記憶の平原は、大地を細い糸でぶら下げているような緊張感に包まれ、空だけでなくその空気までもが暗雲に包まれていた。ガロン族とミレナ軍がぎりぎりで睨み合っていた。
記憶の平原に置かれた前線司令部に着くと、事態の深刻さがはっきりとした。敵は明らかに前回より賢くなっている。カイロン族がここからさらに南方にあるハク村を孤立化させ、分断した幹線道路部分にガロン族が加わり、カイロン族がハク攻略、ガロン族が北進しようとしていた。さらにミレナ東のトウィニブルの森からはカロン族が進攻しており、ミレナ防衛部隊の分散化を計っている。
混乱した事態の収拾にこの一日を失ったことを司令官は悔やんでいた。ハク村を見捨てる訳にはいかないが、ミレナ市街地に敵を入れるわけにもいかない、と司令官は苦慮していた。
「明らかに3種族は連携している…だから王弟部隊諸君に期待している」と。
命令系統を混乱させれば戦闘は楽になる。もしかしたら敵同士、同士討ちを始めるかもしれない。ヤマバは司令官の我々に対する期待を聞きながら、王弟の意図を探るという裏のあるこの任務に、暗澹たる気分に陥った。
ハクとは連絡がとれないし、時々黒煙を確認しているが、残された防衛部隊の規模から未だ落ちてはいないと考えられ、救出にミレナ軍全体の士気は高い。ハクはもってあと1日と判断した司令部は、翌朝の反撃を決断。サーボ隊はひとまず、戦闘の混乱に乗じてガロン族の中心に向け突入することとなった。
運命の歯車は、その噛み合わせを確認するように、ゆっくりと、ゆっくりと、回っている…