歯車物語 著:歯車
第1話 二つの国家
剣と魔法により紡がれる世界。大陸には二つの国家が存在した。ミレナという国…剣により大陸に生み出された国家である。そしてレインという国…かつてミレナと袂を分かち、魔法により統治される国である。世界は、この二つの国家により紡がれる。
ヤマバはミレナにおける女マーシナリの一人である。マーシナリとは、機敏さと隠蔽性を兼ね、国家の情報収集や特殊任務を担う戦士である。ヤマバは、マーシナリの部隊長であるレイシャナ=キューブから最も信頼されている戦士の一人であった。
それはミレナが雨期に入った頃。伝令員より伝えられたのは、任務ではなくキューブへの出頭であった。王宮の脇にある軍事基地へついた頃には、夕暮れ時になっていた。
キューブの執務室には、赤い対角線が走っていた。部屋にはふたりきり。ヤマバと向かい立つ長い黒髪を持つ長身の女性、今にもその視線だけで人を殺しそうな雰囲気を持つ美人は、マーシナリ部隊長のレイシャナその人である。
「王弟の元にいってもらう」
声はない。唇の微かな動きから言葉を読み取る。
現王には弟がいる。狡猾な性格であり、現王が即位するときにはその影となり、国内の混乱を収めた。
「何か動きでも?」
声を出さずに返す。
現王の即位に尽力したため、あまり追及されていないのだが、王弟は非公式に、独自の部隊を持っている。
「独自に狩りの戦士を集めている。参加して探れ。」
「はっ」
自分の部隊を動かして注目を集めてしまい、その存在が明るみに出るのを王弟は恐れている。今回の狩りの召集。参加すれば王弟が何を考えているのかわかるかもしれない。
この任務がヤマバの運命の歯車を狂わすとは、まだ考えつかないでいた。