マージおじさんとボグヴァーツ特急 著:日下部 峰雪
第3話 努めて平静に
「一体何が書いてあったのかしら?」
彼の妻は努めて平静に夫に語りかけた。
「またあの小鬼共だ!」
怒りの吐け口にありついたかのように、バーノンおじさんが怒鳴りだす。
「私の製品はまたあの東洋の小鬼共にどうにかされちまいそうだ!くそっ、いまいましいちび共め!エコノミックアニマル達の製品は今度はこっちの半分の価格だ!一方で価格が少し割高だと思えば精度がこちらの十倍・・・一体どうなっておるんだ!誰がやつらに文明を与えてやったと思っておるんだ!」
ハングリー精神を失った彼の製品が精度で日本、価格で韓国、中国に挑戦出来る筈もない。 日本人にはいい迷惑に違いないが、彼にしてみれば日本も韓国も中国もおしなべて区別がつく筈もなかった。 そして彼の談義は怒号を以ってますますエスカレートする…かに見えたが、突然のうなり声にかき消されてフェードアウトしていった。
声の主はダーズリー一家のただ一人の子、ダドリーのものだった。 その声は不明瞭で何を言っているのか定かでないが、何かしらの悪態をついているようだ。 何事かと彼のほうを見ると、健康的なことに朝からテレビゲームの真っ最中だったらしい。 そして画面には黒地に白のゴシック体で“GAME OVER”とだけ書いてある。 どうやらダドリーの繊細な精神は、バーノンおじさんによる談義の嵐の中ではゲームへの集中を維持できなかったようだ。
部屋の隅では、地べたに座り込んだ痩せ細った少年がそれを見て、ケタケタとひねくれた笑いを浮かべている。 この家にいる同い年のもう一人の子供、先に述べた預かり子である。
―ようやくハリー・ポッターの登場である。しかし彼はこの物語において重要ではない―
ハリーは魔法使いであり、おととしから魔法学校に通ってそこではヒーロー扱いされていたが、今は学校が休暇期間に入っていたためにダーズリー家に戻ってきていたのであった。
リアリストのダーズリー夫妻からみれば、ハリーは現実に立脚していない不埒な子供であった。現実に立脚していないということはすなわち常識から外れているということであり、常識に従うことで今の安泰を勝ち取ってきたバーノンおじさんにとってそれは受け入れ難いことであった。まして魔法使いなどという、おおよそ気違いじみている連中と関わる事は彼の外聞、信用、商取引、つまり日常的な社会生活の破滅をも意味しかねなかった。 魔法などという子供の空言や、それを取り巻く、何も知らない愚かな子供をたぶらかす“社会的”でない無頼漢じみた大人連中がバーノンおじさんにはなんとも馬鹿馬鹿しく、しかし得体の知れない不気味さをも感じるのであった。
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