マージおじさんとボグヴァーツ特急 著:日下部 峰雪
第1話 ひとは誰しも
人は誰しも何らかの形で未知なるもの、超越的なものに憧れる時期があるはずだ。 しかし時が経つにつれそれは周囲の“大人を自称し常識と秩序の守護者を気取る” 者達によって笑いものにされ、恥をかかされ、騙されて不利益を被らされたり、またはもっと悲劇的に現実を思い知らされることになる。そしていつしか大人の世界に適応する頃には本人もまた“子供達”に“慈悲と啓蒙の”精神を以って、憧れを笑いものにしたり大多数に適応させる為に叱ったりする。
例えばここに、マージ・ダーズリーという男がいる。男の名前としてはやや不自然な感があるが、その理由はすぐに分かるだろう。 彼もまた彼なりの夢物語に胸を躍らせ、国家の安っぽいプロパガンダに熱狂し、きちっとした制服と精悍な横顔、そして数々の冒険への憧れに胸を膨らませて軍隊に入り、ミドルイーストの戦場で出会い死線を共有した親友をその激戦のさなか見失い、そしてハンサムな映画の主人公達の扮する勇敢な軍隊とはまったく異なる過酷な現実に絶望する。
厳しい気候、最低の補給、突然の夜襲に夜もおちおち眠れない。 戦う相手は屈強だったり悪役のような憎々しい面構えをしたりしている訳でもなければ、そもそも兵隊ですらなかった。
彼は戦争が停戦を迎えるとそのまま軍を去った。 戦場で見失った親友リチャードの姿を二度と見ることはなかった。 そして彼はこの物語の中で憧れと現実の狭間で苦悩し、 過去の疑似体験とも言える不快な現実を克服し ―そしてさまざまな人との出会いを通じてまた憧れに還る・・・
今、私はそうなる事を切に願うものである。 魔法という言葉は人々にどれだけの憧れを与えうるものなのか、どこまで生々しさを克服できるものなのか、私は期待したい。